感覚をつないでひらく芸術教育を考える会
第13回 研究発表会



2019年3月24日(日) 
兵庫教育大学 加東キャンパス 芸術棟100番教室


 第13回 感覚をつないでひらく芸術教育を考える会 研究発表会が,兵庫教育大学 加東キャンパスで開催されました。



 



第13回研究会の司会・進行は、光徳幼稚園園長・椋田敏史先生です。
 


オープニングの基調提案は兵庫教育大学の 初田隆 先生です。


基調講演は「絵から音を聴く」です.

 水木しげるの話をもとに・・・水木しげるは,絵から音が聞こえていたそうで,逆に水木しげるにとって「他の人が,絵から音が聞こえないのが不思議」と言っていたという話から,水木しげるの絵をスクリーンに映して・・・

ベトベトさんの絵・・・夜道を歩いていると,後をつけてくる.足音だけが聞こえてくるという妖怪,音が聞こえてくるか?

鬼太郎一家の賑やかな光景・・・「円卓を囲む鬼太郎一家」
一反木綿がおいしそうにお酒を呑んでいる,その音が聞こえるか?


 ブリューゲルの「子供の遊戯」,16世紀フランドルの画家ピーテル・ブリューゲルが1560年に描いた油彩画で,絵に描かれている子どもが,91種類のさまざまな遊戯をしている姿が描かれています.

たとえば・・・

 棒に跨って馬の遊び・・・中世騎士道の名残,子供たちに人気の遊び

お粥のかき混ぜっこ・・・牛糞をお粥に見立てて,ぐるぐるかき混ぜる遊び

子ども椅子・・・おまるを使った遊び

豚の膀胱を膨らませる遊び・・・口から空気を漏らして,音を楽しんでいる.或いは,膀胱の中に石を入れて振り回して遊んでいる.

目隠しをして棒を持って鍋を叩く・・・西瓜割りに見立てた遊び お鍋の横にいる子が,鍋をコンコンとして,鍋の場所を知らせている.

行列になって,結婚式の遊び ・・・ などなど


 参加者に配布されたブリューゲルの「子供の遊戯」の絵の中の「遊び」が個別にマークアップされており,それが参加者が担当する遊びになります.

 その絵の「遊び」から聞こえてくる音を奏でる楽器を,参加者が一生懸命に選んでいました.



スクリーンに映し出された数々の遊びが,レーザーポインターで次々に指し示されます.


練習風景の音声「子どもの遊戯」 20秒 



レーザーポインターで指し示されると,その遊びの担当者が,自分が選んだ楽器を用いて「遊び」を表現しました.


ブリューゲル・「子どもの遊戯」の音表現  47秒 







続いて、ワークショップ「打つおとの うちがわと むこうがわ」です.

兵庫教育大学の木下千代先生から,打楽器奏者・安永早絵子さんの紹介です。


安永さんは,打楽器デュオ「だがっきスイッチ」主宰され,ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 ティンパ二・打楽器奏者です.

オーケストラ,吹奏楽,アンサンブルなどで幅広く演奏活動をする一方,安永さんご自身の企画・考案・演奏によるワークショップやコンサートも数多くおこなっています.


ワークショップの最初は,会場から出されたお題をもとに即興演奏です.

会場からは「花粉症」,「なめらか」「いわや」と,3つのお題が出て・・・三題噺ならぬ即興演奏です.


「なめらかで 花粉症な いわや」のイメージで即興演奏がはじまりました.

次のワークショップは,会場で輪になって座って・・・手をたたく音・・・それぞれの音の音色やタイミングなどの個性を感じながら,順番に隣にリレーして音をつなぐ,というものです.


隣の人が受け止めてくれるので,安心して「手をたたく音」を隣の人に渡せます.


次々と,「手をたたく音」がつながって 「手をたたく音」が輪を、順番に廻っていき、一周しました.


次は,輪の中で,ひとりがリズムをとって「ソロ(パフォーマンス)」をする,終わったら「1・2・3」と,次の人に渡して・・・輪の中でソロが続きます.


いろいろなソロが,輪の中で繰り広げられました.










続いてのワークショップは「くちゃくちゃ ケチャ」


5つのグループに分かれて,

「はら へった!」
「なにたべる?」
「よくかんで!」
「おやつ なにー?」
「うまかった!」


全員で,それぞれのパートの練習です.


各パートを,最初は全員で身振り・手振りをつけての練習です.


音声_ パート練習「くちゃくちゃ ケチャ」 約52秒


安永さんの身振り・手振りの指導が続きます.


「おやつ なにー?」では,おやつ毎に手振りの表現が異なります.


そして各グループに分かれてパート練習

パート練習でも身振り・手振りをつけて・・・


各グループが,切磋琢磨して・・・練習に余念がありません.


予定の時間を過ぎても,各グループは熱心に練習を続け,それを安永さんは見守っていました.


グループでのパート練習が終わって,全体で半円となって,最初の「はら へった!」での「ぐー ぐー 」の練習です.


「よく かんで!」は,「くちゃ くちゃ くちゃ くちゃ」そして時折「ケチャ!」と・・・


いよいよ通しでの練習です.楽しみながらも,みなさんは結構真剣でした.


動画 練習風景「くちゃくちゃ ケチャ」  23秒


そして本番です.



音声「くちゃくちゃ ケチャ」  約58秒


休憩のひととき,安永さんは楽器を前に「問わず語り」を始めました.


電車の中で遭遇した気になる乗客のエピソードを,つれづれなるままに パーカッションを打ちながら語りました,



参加者に,心の中に浮かぶことを,パーカッションを打ちながら語りませんか?と促すと,参加者の中から何人かが出てきて、心の中のつぶやきだったことをパーカッションを奏でながら,問わず語りを始めました.






ワークショップの最後,参加者全員でひとつのテーマを決めて,そのテーマの感情を表現する語彙を挙げ,その感情を表現するオノマトペをみんなで考えました.

テーマは,マイナスの感情を伴う「失恋」となりました.安永さんのパーカッションの演奏と共に,参加者がオノマトペの合唱・・・


「失恋」のままで終わっては切ないので,その後に「出逢い」を付け加え,参加者がそれぞれ楽器を手にして,演奏で表現することになりました.


 参加者が、それぞれ楽器を選びました。


 まず「失恋」のネガティヴな感情


低い太鼓の音で、暗く沈むように・・・


 「失恋」の痛みの後には ・・・ 「出逢い」の感情


「出逢い」の感情を、華やかにみんなで手元の楽器を通して表現しました。


ワークショップが終わって,片付けをしながらの質疑応答です.その中で,「安永さんが好きなカレーをパーカッションで表現して欲しい」というリクエストがありました.

リクエストのカレーを、「打つ」を通して表現しました。





ワークショップの後は研究発表です.


たつの市立御津小学校の古家美和先生による「生活の中の芸術と豊かに関わる資質・能力を育成する題材の開発 ― 共感覚的な感性経験を基軸とした指導の展開 ― 」です.


兵庫教育大学での学んだ「総合芸術表現」を,実際に学校現場で実践した内容です.


兵庫教育大学大学院生によるパフォーマンス発表です.

最初は「一週間」
井澤奈那さん,石塚桃子さん,梅北千香さん,中塚良太さん です.

月曜から日曜の一週間をそれぞれスクリーン上の映像と,楽器での表現でした.最後の日曜は,出演者が集まってのディスカッションです.


出演者からのコメントが最後にありました.


次は「テレビゲームはやめたけど・・・」
有岡雄一さん,池田圭さん,寒川鉄平さん,中川美穂さん です.

3人がゲームのコントローラを手に,白い布で覆われたモンスターを攻撃



動画 パフォーマンス「テレビゲームはやめたけど・・・」より  26秒


ゲームコントローラを手放して「だるまさんが転んだ」を楽しむシーン



次に、縦笛に合わせて,リズミカルな身体表現


そして、掌にインクをつけて,Tシャツに掌のスタンプ


敷いている模造紙にも掌のスタンプをペタペタ・・・


模造紙に,身体のかたちが浮かび上がっていました.


身体全体をつかった遊びを次々に繰り広げていました.
ゲームのコントローラは床に放り出されたままです.


突然,スマホの着信音が聞こえて・・・それぞれがスマホを手にして、小さな画面を見ながら入力を始めました.


最後に,出演者からのコメントがありました.


最後は「ちくりん と こびと」(映像作品)
岡野七恵さん,黒川さゆりさん,横山琢哉さん です.


紙に水を濡らして,その後に墨で・・・竹林を表現.そして色インクで こびと を表現するプロセスを映像で追う作品です.


 映像の中での作品が完成した後、作品を振り返りながらの解説のナレーションが続きました。


映像の中で完成した作品の披露がありました.


プログラムが終了して講評,奥忍先生です.


・・・最初の基調講演で取り上げられたブリューゲルの「子供の遊戯」,この絵に描かれている「遊び」を,みんなで楽器を奏でて、”絵を音で表現したこと”は,ワクワク感があり,今日の研究会を貫くテーマの提示になってよかっと思います.

・・・この研究会が12年続いて,その研究会での成果がこんどは,各学校で実践して教育に活かすことができます.それがまた研究会での研究発表となって実を結び,その成果が更に授業に活かされて,充実した授業が行われていることを感じました.

*

・・・今回の研究会で,もっとも印象的だったのはワークショップでの「失恋→出逢い」において,“負の気持ちをおもてに出す”ということでした.

・・・今,学校の中で,負の気持ちを表現することがなくなっています.負の気持ちが蓄積されていくと, いじめ や 不登校 のようなことが結果としておこってしまいます.

・・・その前に,「 ”負の気持ち” も ”人間の気持ち” として表現 」することができるような機会とともに,勇気を持つことが大切だと思います.

・・・音楽と美術を通して自分の気持ちを顕わすことが出来ます.そのことをワークショップの中で気付くことが出来たことは素晴らしいことだと思いました.

・・・今日の研究会のひとつひとつは,それぞれが大変面白かったと思います.そして研究会全体を通して感じたことは,技術的な側面だけではなくて,精神的な,つまり子供たちの「育ち」と直接結びつくような大切なことに関して提言をいただいた・・・ということです.これは今日の大きな収穫でした.


最後に事務局の兵庫大学短期大学部 井上朋子 先生からの事務連絡・・・その前に、

・・・今回の研究会は,表現力とパフォーマンスの面で,これまでの中でで もっとも良かった と思います.

・・・研究会の参加者の方々の表現力が高かったと思います.それは.ずっと参加されている方が約半数で,研究会を重ねる中で参加者の表現力が培われたのではないかと思います.

・・・学生に関しては,兵庫教育大学において総合芸術表現の授業がはじまって約10年が経過して,総合芸術表現の授業自体がだんだん凝縮されて,受講した学生の表現力が豊かになったのかもしれません. 良い刺激となりました.



 そして、感覚をつないでひらく芸術教育を考える会 への入会の案内と事務連絡がありました.


兵教大の加東キャンパスのメインストリート沿いの桜並木のつぼみは、まだまだ堅く,嬉野に春が訪れるのは・・・もう少し先かもしれません.

大学正門前のバス停、バス停の横にベンチが並んでいました。


 大学の周囲は田畑が広がっています。畦道では、小さく可憐な花が、早春の柔らかい陽光を受けて、淡く輝いていました。